カナリアるーむ こころの相談室

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黒法師

「黒法師」(クロホウシ)という植物をご存知だろうか。

とても地味な見た目で、黒いような赤みがかった緑の葉だけが、細い木の枝のような茎にロゼット(放射状)に開いている。ちょっと不思議ないで立ちの植物である。
法師というくらいだから、何がしか修行を積まれた敬うべき品格があるように…?見えなくもない。敬意を表して法師殿と名付けている。

黒法師は冬に成長する。

人が寒くて凍えているような季節に、庭で揚々と葉を開き、日光を受けて育つ。
暖かくなって人がパステルカラーの服など着て浮かれだした頃、いつの間にやらそっと勢いを潜め、しだいに眠りにつく。

夏は眠る。といっても寝たのかどうかも気づかれないほど、同じ黒衣の立ち姿のままそっと眠り、たまに暑い日に葉がほろりとこぼれたりする。そうして夏は完全に休眠期に入るのだ。森の熊と逆。へえ、変わってるなあ…と興味をひかれ、面白いもの好きが高じてもらってきてしまった。

法師殿はもとは故郷の実家の、近所で営まれていた食料品店(兼雑貨店)に育てられていたものだ。店のご主人が亡くなり、おかみさんも年老いて数年前に店を閉め、今はどこかの施設に居られるそうだ。幼い時分にはよくこの店の周りでアイスを食べたり、学用品を買い足しに行ったり、くじ引きをしたり、本当ににぎやかであったが、店を閉める前にはすっかり駐車場完備の大手スーパーにお客をとられてしまっていた。そのおかみさんがかろうじて一人で店を開けていたころ、豆腐や卵などの補充的な買い物に行った母に「よかったらもらって」と分けられたのがこの黒法師だった。実家の庭に植えられて、そうして、法師殿は数年前からうちのベランダに居る。

挿し木にしておくと増える。けっこうお元気である。原産は北アフリカで、多肉植物の仲間だ。

花も咲くらしいのだが、開花は生涯一回かぎり。その花の時期もいつなのかまるでわからない。しかも花が終わると株も枯れるというので、これまた、へえ…。

おかみさんも母もまだ花を見たことがないと言う。

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春だからといって華々しくなくてもいい。
法師殿はのたまう(いや、知らんけど…)
「春だからって花がなくてもええでしょ。自分はこれから休眠期よ。」

いつ咲くのかわからぬ花を待ち遠しく、期待する気持ちを表してなのだろうか、
黒法師の花言葉は『いい予感』という。

何を花とするかは各人生によるのだろうけれども、一度限りでも存分に、この植物なりに咲いて終わるなら、あたかも、ひとの人生のようにも思える。

育つ時期も
眠って力を貯める時期も
花咲く時期も
どの地で成長するのかも
その人その人の好きな時期、場所があるんだろう。

そうか。それも、いいじゃないか。

暖かくなってくる頃、「いつ咲くのか、どこに咲こうか。いつかはどこかで咲くのかもしれない」…と見る者にも当の本人にも、願わくばいい予感を抱かせながら、また次の木枯らしが吹くまで睡る植物。

というわけで黒法師殿、これからの春夏、ベランダにてどうかいい時間を、いい夢を。あなたの姿に、この冬もなんだか心が安らぎましたよ。

あなたが寝入る季節、私はもらった元気を活かして、自分にできる事から動き出します。