早い梅雨入りからすでに6月も半ばとなり、曇り空の下、蒸し暑さも感じるようになりましたね。
調子が出ない、そんなじめじめする日もあるけれど、この季節を乗り切るイメージに、私は水田を思い浮かべてみることがよくあります。
この季節の田といえば、代かき。
荒い土、畦を直し、用水路をととのえます。土にがたぼこと高低があれば日当たりも一定でなくなり、固い所に無理に苗を植えようとすれば根が張ってゆかない。適度に田を起こして土をならし、水路をつけて流れを確かめていく…この作業は、つい不安や怖れに固くなっていた自分の心を柔らかくしていくような何かに似ています。
…こころに育ててきた大事な、思いの苗は今、いかがですか。ようやくこれから田へ植えていく季節なのだと考えてみましょう。カレンダーが一年の半分も過ぎてしまった…などと嘆くより、半年静かに努め、力を守ってきた、まだまだこれから。焦るときではないと気づけます。
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昔、中学生の頃、年配のとても個性的な美術の先生から度々「可能なら自転車を生活に取り入れなさい。季節の移り変わりを全身で感じられるから。」とすすめられたことがありました。先生は既にお年であったから通勤は自転車でなくスクーターに替えておられたのだけれど、いつもご自分のスクーターを「私のナナハン(750cc)」と呼んで、そのナナハンで感じた朝の風景を物語ってくれたものでした。今なお授業の思い出とともに、その意味を実感することがあります。
山と海のせまる土地、相談室のあるこの神戸の街では難しいけれど、田舎のあのころに知った、水田の上をわたる風の心地よさを、時々無性に感じたくなります。
関西に住むようになってから覚えているのは、丹波篠山や奈良で自転車をレンタルしたときや、あるいは近江の米どころ、JRの窓から滋賀の水田地帯の景色を見たとき不意にはっとして、随分気持ちをいやされたことがありました。
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いきなり畑に種をまくのではない水稲は、昔から育苗がその後の生育や収量に大きな影響を与えていくと言われます。みなさんの心の中に、そんな苗がたくさんあることを感じています。
その苗が植えられていくこの季節、ちょっと泥臭く足を取られそうな不安感があったとしても、水の張られたその下に、つらい思いもいつかの迷いもすべてをおおらかに含んで、しっかり代かきされた豊かな土があることを知っています。もう一度確かめて糧にしてゆきませんか。
みなさんにはどんなとっておきの風景がおありでしょうか。よかったら教えてください。