桜の季節。
誤解を招かないように先に書くが、ソメイヨシノは無論、美しいと思う。
ただ、ソメイヨシノが一斉に咲いて一斉に散るのは、挿し木接ぎ木でしか増えないクローンだから。……人の手をかけられて、人の手に守られ大切に愛でられて、ソメイヨシノは日本中に増えた。ニッポンの心。
クローンに話を戻すが、同じ気象条件が整えば、揃って咲き、潔く揃って散る。桜前線などという言葉が通用するのも、その条件、足並みが揃っているからこそ可能となる。
桜と言っても種類がある。少し早めに咲いたり、遅く咲いたり、葉っぱと一緒に咲いたり、小ぶりだったり、ほんのり赤みがあったり、花弁が幾重もあったりする。
面白いのは、桜は花の芽がすでに夏秋から用意されていることだ。花開く時を長く控えて待合している。つまり眠っている。冬の厳寒を経験したあと、陽気のなか眠気から起こされる形で一気に開花する。だから時たま、小春日和に時期外れの開花をしてしまう桜や、十月桜などという秋咲き、春まで咲いて二季咲きする品種もある。
実のところはみんなが同じではないし、一斉にというわけでもなさそうだ。
今年は、家族の入院と見舞いついでに、病院の近所にあるエドヒガン(江戸彼岸桜)を見に行った。というか、久しぶりに会いに行ってみた。
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私が日頃部屋でお目にかかる方々は、少し遠慮がちにしていらっしゃるが、お話を伺うとソメイヨシノ的ではない個性の生き方のほうに親和性が高い方々かもしれない。
しかし、みんなと違う気がすることに気後れしないでいてほしい、綺麗でそっと、且つ力強く咲いておられる方々だと思う。
エドヒガンは古く野生種で、山の急な斜面にもめげずに咲ける。長寿なため巨樹の一本桜も多いと言われる。葉より先に花がつき、やや小輪なのだが花数多く華やかだ。彼岸の二文字をその名に負うように、ちょうど春分を過ぎる頃、少々早めに咲きはじめる。一斉桜組よりちょっと早い開花ゆえ、花見客もまだまばらで、人混みが苦手な私にはお誂え向き、いつも少し肌寒い中マフラーを巻いた状態で見るから、早咲き種と覚えた。この時期は頬が冷たい中、温かい飲み物をわざわざ戸外で飲むのが好きな私は、この桜を見上げながら思う、こんな短いひとひらの季節の移り変わりにこそ、支えられてきた気がする。
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さあ桜はこの週末が満開だろうか。
皆様はどんな春の思い出を留めたでしょうか。
今年もそれぞれの春の景色を心に刻んで、新しい年度を迎えてまいります。