カナリアるーむ こころの相談室

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一服のむこうに

8月に入りました。梅雨が明け、一気に気温が上がっております。

暑い中ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

お断り:本日のブログは煙草に関する記述が多く含まれますので、煙草がお嫌いな方、禁煙されている方、不快になりそうなかたは閲覧をお控えください。(なお、煙草を推奨するものではありません。)

 

さて、皆様はどんなふうに「一服」の時間をお過ごしでしょうか。

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最近は休憩、カフェ、などという表現になるのでしょうか。お茶やお薬も一服、あるいは以前は先輩や同僚から「ちょっと一服してきます」などと軽い会釈を受けて、煙草を吸いに行かれる姿を見送ることも普通にありましたが、こうして考えてみれば「一服」という言葉もあまり聞かなくなりました。

私もそうですが煙草を吸わない方は、お茶やコーヒーの時間で置き換えて頂いていいと思います。一服、という言葉には、ちょっと緊張を解く、しばし不安とともに漂ってみる、考えや思いを一旦横に置いて見てみる、そんな短いですが休息の、一瞬ですが安らぎの響きを感じられます。

 

健康増進・受動喫煙防止の時代に敢えて、今日は、煙草が人の心の機微を代弁してくれているような映画「浮き雲」を紹介したいと思います。

フィンランドの映画監督アキ・カウリスマキの作品で、失業と時代の早い流れに絶望寸前の中年夫婦が再起をかける人間ドラマです。

彼の作品には基本的にあまり表情もアクションもありません。それだけに、人々のほんの小さな口元の動き、瞳の表情、そして今日のテーマ煙草がとても効果的に差し込まれており、そこはかとないユーモアと共に、じわっと心に来るものがあります。

女優のカティ・オウティネンさん、この方の抑えた演技がとてもよく、いわゆる絵に描いたような美女ではないのかもしれませんが、その横顔や少し微笑んだところなどが私は個人的にとても好きです。

そして煙草です。出てくるほとんどの人が吸うその煙草には、まるで言葉があるかのようで、ときには言葉さえ要りません。謝罪、友情、仲直り、不安、怒り、焦燥、まさに「一服」さまざまな場面に登場しますが、一番効いてくるのはやはりラストシーンでしょうか。

 

なぜ今回、煙草を話題にしたかと申しますと、この一服の感覚が、カウンセリングになかなかに近いものだからです。日本ではいまだに高額で、限られた人やよほどの困ったときでなければ受けないものととらえられているカウンセリング文化ですが、実際にはこんなお茶や煙草の「一服」のように、日常にとても近い場所にあってよいものです。

忙しい時、心配ごとがある時、なんだか疲れた時、ちょっと行き詰った時、考えがまとまらない時、とてもうれしいことが/悲しいことがあった時、人との/家族との行き違いがあった時、いろんなことが日常茶飯事に起こり得ますが、そっとその溜まった思いをふっと吐き出してみる時と場所はやはり必要です。そんな「一服」の瞬間は、面接室での言葉によるあなたの体験の解放、捉えなおし。ちょっと一時停止ボタンを押して、一服の休息です。そのひとときによってあなたの体験が再び動き出す、そんな感覚と想像していただければと思います。

紫煙の向こうに、淹れたてのコーヒー・お茶の湯気の向こうに、どんな景色が見えますか。

 

以前、電話相談をお受けしていたころにも度々感じていたことですが、ぎりぎりまで耐えて、我慢をして、もうだめだ、これ以上は無理だ、そこまで忍んで今日、やっとダイヤルしました…という方々のなんと多いことか、ということです。つらさを抱えながら、息苦しさを抱えながら頑張ってきた方々の思いを受け、身が耳になるような思いでした。故に、そんなにまで我慢をしつづけるもっと手前で、どうか「一服」の時間を、気軽に持っていただければとカウンセラーとして日頃感じています。

 

先程の映画「浮き雲」の女優カティ・オウティネンさんですが、2017年に日本でも公開された韓国映画「男と女」にも最終場面に特別に出演しておられ、画面でそれに気づいた時には思わず目を見張りました。映画評はここではいたしませんが、カティさんが演じる役がほんとうに短いながら、これもまた効いています。あまりに自然で気づかれない方も多いかもしれません。それほどに端役なのですが、ここでも煙草が登場します。韓国人女優チョン・ドヨンさんがさまざまの思いを経て辿りついた先でほぼノーメイクに近いお顔で涙するのですが、この様子もまたなかなかに意味があり、そんな彼女の横でそっと佇んでいるカティさん、その立ち姿が、なにか私たちに静かながらも不思議な力を与えてくれる、ということだけを申しあげておきましょう。ご興味のある方は、ご覧になってください。

 

今月も、コロナの混乱時期を受けましてひきつづき、初回無料相談も受付しております。どうぞお気軽にご予約下さい。