寒さの中にも、陽射しのまぶしさに春の季節を感じる月となりました。
分厚い上着に冬の間じゅう隠れていた自分自身、あるいはあたためておいた思いにも気づくことがあるかもしれない、そんな2月です。
こんな季節に似合う花、桃子という名の女性が登場する作品を今日はひとつ。
向田邦子さんの短編小説に「胡桃の部屋」という作品があります。
仕事人間だった父親がある朝ぷつんと糸が切れたように家を出た後、ばらばらになりそうな家族のために長女・桃子が、いざ獅子奮迅勇ましく父親役を買って出る、ちょっと可笑しく、ちょっと悲しく、ほろ苦い昭和の作品です。
何年か前にNHKでも松下奈緒さん主演でドラマ化されていました。
ドラマのほうは、松下奈緒さんのひたむきな桃子役の優しい佇まいが、全体に上品でどこか透明な感じを行き渡らせて、これはこれですてきなドラマだった記憶がありますが、実際の原作の短編のほうは、もっと人間くささもあって、人の肌の熱がじんわり伝わってくるようなところも、短編ならではの余韻というのか、魅力かもしれません。
その長女・桃子が一心に進んできた道の途中で、時には振り落とし、封じ込めた数々の思いが、作品の最後に衝いて出てきます。それが「胡桃の中の使はぬ部屋」。
胡桃というのは大変固い殻に被われていますが、割ってみると意外と隙間、空の部分があったりします。ぎゅっと身をひきしめて、それが胡桃のおいしい味になるのかもしれませんが、この空間を心の働きとしてみると、みなさんはどのように捉えられるでしょうか。
あなたの家にも使わない部屋、そんな部屋はありますか。畢竟、押入れだったり、或いはデッドスペースとも呼ばれたりしますが、収納にあてている方も多いでしょう。
短編の桃子さんの場合は、甘えも嫉妬もそんなものはハナからなかったとでも言うようにがんばってきた。その実には懸命に目を向けてきたけれど、薄皮一枚の外側を知らぬふりで過ごし、必死に駆け抜けた。他の登場人物たちの目前にもそれぞれ、おのずと立ち現れてくる。あるとき気づいてしまう、胡桃の部屋の存在です。
みなさんの胡桃の部屋はいかがでしょうか。
もしあるならば、その部屋になにをしまってきたでしょうか。またはなにかを放り込んでおいたりしたでしょうか。あえてきちんとそこに片付けてあるかもしれませんし、忘れているものもあるかもしれません。あるいはもっと前から、最初からそこにあったものでしょうか。
見つめてみたほうがよいでしょうか、そっとしておいたほうがよいでしょうか。
それぞれの世代や置かれた状況に合わせて、一人ひとり別の違った部屋の管理のしかただったり、置き方だったりになるかもしれません。
いまのあなたにとって、その部屋はどんな意味を持っているでしょうか。
こんな「使わない部屋」の感情も、カウンセリングで扱う部分にもなるかと思います。
今月もメールにてご予約をお待ちいたしております。